前を向いて進めないときは後ずさりでも進めばいい
前を向いて進めないときは
後ろ向きでも何でもいい
後ずさりでも進めばいい
止まることなく少しづつ
見っともなくても格好悪くても
自分の足で一歩づつ
止まらなければいつかは辿り着く
山歩きも人生も
ほんとシンプルな自己責任

行動したから実現できている感動と激痛
一カ月以上ぶりの山歩き
雨続きでお昼過ぎから晴れの予報
えぐれている黒土赤土の登山道
登りで痛み出した膝に
一抹の不安を覚えながら
霧で真っ白な眺望の頂上で
早い昼食を済ませたころには
青空が見え始めたから
気持ちも晴れてくる
今日の長い山行はこれからだ
歩きたかった稜線を歩いている
見たかった景色を見ている
行動したから実現できている
この時とばかりに鳴いているうぐいすと
新緑と花木と山野草と
吹き渡る風と連なる山々と空と雲と…
至福の時間
感動で胸をいっぱいにしながら
小さな一歩を踏みしめる
だけど…
今回は歩みを進めるたびに
我慢出来ていた膝痛が激痛に変わってきた
いちばん近い下山ルートでも3時間以上かかる
この足では何時間かかるんだろう
まだまだ先は長い
「ガレ場じゃなかったから油断した?」
「有頂天で丁寧に歩いていなかった?」
反省したり
「ゆっくりゆっくり一歩一歩」
「時間はあるから大丈夫」
励ましてみたり
「登るのも下るのも最後まで自分の足」
「進みさえすればいつかはたどり着く」
そんな毎回の感動に
容赦ない激痛がプラスされた
足指の付け根を骨折したまま
部活のバレーボールを2年間続けた痛みを
思い出していた
練習の始めと終わりは
とてつもない痛みだけど
途中から痛みは麻痺してくる
「麻痺すればいいのに」
そう願ってもそうはいかないようで
足を着くたびの激痛に
「痛っ」
「痛ったたたたたっ」と
一人だから
遠慮することなく我慢することなく
弱音も声にして吐き出す
数歩進んでは立ち止まる
慰めは
霧が晴れて青空が広がって
そこに
見たかった景色がどーんとあること

歩いてきた稜線を眺めて感動し
これから歩くであろう
長い稜線を眺めても
絶望するよりも感動できるのは
小さな一歩の偉大さを知っているから
進みさえすれば
いつかは
たどり着くことを知っているから
ただ残念なのはやっぱりこの膝の激痛だ
涙がにじむ激痛と涙が出るほど嬉しい一期一会
分岐であやふやな道標だったから
声をかけたおじいちゃんは
私の異常な歩きに気がついたのだろう
先に進んでは
私の姿を確認してから登っていく
休んで待って
また私を確認してから下りていく
最期までそうしてくれた
下山口で
私は心からのお礼を言った

私の脇をすり抜けていった
トレランのお兄さんは
しばらくすると戻ってきた
「荷物だけでも」と言ってくれるけど
「一歩づつゆっくり下りれるから」と断った
「大丈夫だから先に行ってください」と言う私に
「水はありますか」と心配してくれる
誰もが自分のペースを
乱したくはないはずなのに…
ほんと申し訳ない……
涙がにじむほど激しい痛みの中でも
涙が出るほど嬉しい一期一会に
心は満たされている
前を向かなくても進める
登りでも下りでも
一本のストックに全体重をかける
格好悪いけど何でもいい
横歩きも出来なくなった
だけど何とかして進むしかない
だから
緩下りでは両足の間にストックを突いて
後ろ向きで下りてみる
危ないからゆっくり慎重に下りる
凄い!
後ろ向きでも下りれる!
後ずさりでも進んでいるのは間違いない!
激痛の中
いたく感動していた
人生
誰だって前を向いて進みたいけど
それが出来ないときだってある
そんなときは
止まりさえしなければいいんだ
後ろ向きでも見っともなくても
後ずさりでも何でもいいんだ
「前を向かなくても進める」
今まで及んだことのない考えに
かなり感動しながら
ふっと思う
だけどこれって・・・
目的地があるからこそ言えること
目的地があることの強さ
・・・・・・・・・・
進みたくても進めない人もいる
後にも前にも
進みたくても進めない人もいる
無力感と空っぽ感で仕上がっていた
私がそうだったから…
今さら
具体的な目標を持てるはずもなく
だから
「楽になりたい」
ただそれだけのその漠然とした思いを
心から望んで強く意識して
楽になるための試行錯誤の繰り返しで
結局は
無駄も失敗も
「今」につながっていて
闇雲に必死に手を伸ばして
手繰り寄せた
「今の状況」は奇跡に近い
人生の目的とかビジョンとか
そんな立派なことじゃない
気持ちの持ち方というか…
今の目標
今の目的地
「今」だけでいいと気づけなかった
ただそれだけのことが難しかった
上手く言えないけど
私の場合としか言えないけど
前にも後ろにも進めなかった私が
実感していることだ

これからの山歩きのための膝痛
変形性膝関節症の診断だった
もちろん山歩きを諦めるつもりはない
そんな時
毎年富士山に登っている友だちに
「富士山に一緒に登ろう」と誘われた
富士山を眺めるのは好きでも
登りたいと思ったことはない
鮮明に思い出す数日前の激痛
一瞬不安になったけど
だけど
またとないチャンス
断ればそこまでだ
人生を諦めていたときもそこまでで
私が動き出したら
思いがけずチャンスが巡ってくる
面白いと思う
自分が作った「流れ」には
身を任せ流されればいい
今出来ることは
毎日のウォーキングを再開し
大腿四頭筋(太もも前側の筋肉)を鍛えること
だけど無理はしないこと
しばらくしたら
同じ山に
丁寧に登ってみようと思う
自信を取り戻せたら万々歳で
痛み出したら引き返せばいい
そして対処を考えればいい
富士登山の前に
膝痛があって良かったと思う
気を引き締めて
今出来ることをやれるから
これからの
山歩きのために必要な膝痛だったと
そう思う