何も持っていないから拳を握れる
立ち止まるのも進むのも自分次第
一人で山に登るのが好きだ
友達と登るのも楽しいけど
それはそれ
一人で登るのが好きだ
「寂しくないの?」と聞かれるけれど
充足感に満たされこそすれ
寂しさは微塵も感じたことがない
どうにもならない過去とか
持て余している荷物とか
染み込んだ思いとか
たちの悪い雑念とか
小さな一歩を前に出すたびに
一つ一つと消えて軽くなっていく
無心になる
そして
立ち止まるのも進むのも自分次第で
迂回もショートカットも自分の判断で
寄り道も思うがまま
登山道からの
細い脇道のその先を覗きに行けぼ

不意に見晴らしのいい景色が現れたり
寄り道だから出会えた場所があったりで
わくわくする
期待外れも
それはそれで納得で悔いが残らない
そして本来の道に戻って歩き出す
自分自身を無視しないで
結婚と同時に親になって
ちゃんとした親になろうとした
決意やら責任やら
娘が生まれたら生まれたで
恥ずかしくない
母親にならなければとか
母親の役割とか…務めとか…
日々
子どもに教えられ
子どもに育てられて
親と呼ばれて
なまじ…「親」になって…

「親」だからと
「大人」だからと
見えないどこかに続く細い脇道の
その先が気になりながらも
すっと通り過ぎ
思いを残していた私と
今の私と比べていたりする
頂上を目指しているけど
楽しみは頂上だけじゃなくて
好奇心は好奇心のまま
しんどさはしんどさのまま
そのときそのときのすべてを
「今」を楽しんでいる
変わったなと思う
変わって良かったなと思う
自分自身を無視しないで
気持ちに逆らわないで
心のままに動いているのか
心のために動いているのか
好奇心を満たせる解放感も自由も
小さな一歩から始まることの
感動もしんどさも
十二分に余すことなく味わって
寂しさは微塵も感じたことがない

山では老若男女
「こんにちわ」とあいさつを交わし合う
「お先にどうぞ」と譲り合う
二度と会うことはない人と
短い会話を楽しむこともある
心が温かくなる
何も持っていないから拳を握れる

頂上に立つころには
きれいさっぱり気持ちは洗われて
そこでしか見られない景色に出会えば
開いた手のひらを握りしめ
空に突き上げる
捨ててはいけなかった
自分を捨て
明け渡してはいけなかった
心を明け渡せば
大事なものは何なのか
捨てるべきものは何なのかが
分かるはずもなく
積み重なっていく過去を背負って
一歩も動けず
同じ場所で
上を向いて諦めて
下を向いて歯を食いしばって
拳も握れないほどに
両手いっぱいに
増えていく執着を
すべて大事に抱え込んでいた
だけど今
大切だったはずのものは
どうてことはないものになって

いったい私は
何を守ろうとしていたのだろうか
広げた手のひらには何も残っていない
何も持っていないから拳を握れる
そう思うとギュッと拳に力が入る
そして
握った拳は分かりやすく間違いなく
こころ強さに変わっていくから

私は
一人で山に登るのが好きだなと思う
小さな経験を積んで小さな自信を積み重ねる
いつかは
高山とか人の少ない山とかにも
登れる自信と余裕が欲しいから
まだまだ低い山の
小さな経験を積んで
小さな自信を積み重ねて
大きな自信になるように
出来る出来ないよりも
出来ると思っている方が楽しいから
頑張ろうって気合いよりも
余裕って思っている方が心地よいから
不安は当然で致し方ないけど
とりあえず挑戦と思う方が気楽だから
憧れながら諦めるよりも
思いは形になる感動を味わいたいから

これからも
小さな一歩を前に出して
小さな一歩を積み重ねて行こうと思う