人生最期の瞬間は人生最高の経験をするときなのかも知れない

日々のこと,脱モラハラ臨死体験

30代半ばで難病を発症してから
いろいろな病気を併発した

たぶん死にそうになった経験もある
薬の過剰反応だったと説明があった

「具合悪くなったら言ってね」とか
「痛くなったら言ってね」とか言うから
「はい」って返事をするけど
どのタイミングで言えばいいのか分からない

悪い癖で具合悪さも痛みも受け入れてしまう

具合悪いような気がする
痛いような気がするという感じから始まり
そして受け入れていくから
ボーダーラインを越えて
我慢とも思わずに我慢ができてしまう

看護婦さんが気づいたときには
襲ってくる激痛に意識が飛び始めていた
さすがにここまできたら
″我慢″も分かるけど(笑)
言うまでもない(笑)

あわただしくどこかに運ばれ
私のベッドの回りが騒々しくなった

和らぐことのない痛みの中で
もう痛みじゃない感覚になっている

「旦那さんの携帯番号は?」
大きな声で看護婦さんが聞いてくる
「○○○-○○○○○○○○○」
とあやふやなまま答え終えると

″数が多いから間違っている…
連絡つかずにきっと困るんだろうな”

そんなちゃんとした意識は
一瞬あったりするけど
もう私の中ではそれどころではない

とにかく行きたいのだ
寝ている私の上のほうで
きらきら光って眩しいとかじゃないけど
いちめん白い光の世界が広がっている
温かく包み込んでくれる世界なのが分かるから
安らかな気分は上々になって
私はとにかくそこに行きたいと思う

「○○さーん今楽にしてやるから頑張れっ!」
叫んでいる先生の声をうるさく思いながら

光の世界に向かってすっと身体を離れると
ふわっと気持ちが良くなる

「○○さーん頑張って!」
やたらうるさい声の看護婦さんに戻されるから

嫌な気持ちを精一杯表現するつもりで
必死にゆがめようとした顔が
ちゃんとゆがんだのが分かったり

そしてまたすっと行っては
「○○さーん!○○さーん!」
すぐに呼び戻されたりを繰り返す

″もしかしてこれって死ぬってこと?″

そう思うと意識の中で
9歳の娘の名前を呼んでみた
みた……けどすぐに
″私が居なくてもどうにかなるね…″
そんな思いもよらない思いが
頭に浮かんでまたすぐに消えた

もう私の中では上の白い光の世界に
行きたくて行きたくてたまらないし
行くことしか考えていなかったし
必死に上に上に行こうとした

機器とそれを見ている看護婦さんと
ベッドの私と傍でカルテを見ている先生と
主治医の先生ともう一人の看護婦さんと
広くない治療室の様子が見えている

「○○さんっ!」
うるさい声で呼び戻されて気分は悪いけど
もう反応するのは億劫に思う

「先生血圧60切りました!」
「麻酔科連絡して!」

″ほんとうるさいっ・・・
なんて大きな声で話するの・・・
もっと静かに話して・・・″

記憶はここまで。



目を覚ましたのは病室のベッドの上
「あぶない状態だったって
もう少し処置が遅ければ内臓破裂していたって」
過去形で話す夫の声を聞きながら

意識が飛ぶほどの激痛よりも

痛みの中で痛みじゃない感覚と
例えようのない白い光の世界と
今まで感じたことがない安らかな気持ちと
とにかくそこに行きたかった衝動を
思い出していた

逝かないで良かったと思うかと思いきや
あのまま逝っても良かったと思う

でもやっぱり母がいない寂しさを
幼い娘に経験させたくないとも思うから

だからやっぱりあのまま
逝かないで良かったんだと心からそう思う

痛みが痛みじゃない感覚も
光の世界も安らかな幸せ感も
脳内の神経伝達物質による働きだと思うけど

人生最期のときは想像と違っていた

明晰な意識を持たないまま
幼い娘への執着すら簡単に手放した
リアルなあれが臨死体験だとしたら
きっと人生最期の瞬間は怖くない

人生最高の経験をするときなのかも知れない

泣きながら産まれたとき
笑顔で迎え入れられたかどうかとか

安らかに死んでいくとき
泣いてくれる人がいるかどうかとか

本望とか不本意とか
幸せとか不幸せとか
長いとか短いとか

全部ひっくるめて一生は一生

通過点なのか終着点なのか
死後の世界があってもなくても

最期は誰もがすべての生き物が
きっと安らかに死んでいく

そう思いたい

あの最低な夫を含めても
それでいいような気がする・・・



否応なしに人生最期の最高の瞬間を
誰もが迎えるとしてもそれまでの

意識がクリアな段階で私は
身体もそうだけどそれよりも
心は苦しみたくない

逃げられない変えられない
現実なら受け容れられれば
どんなに楽か・・・

最期は心穏やかに過ごしたい・・・
欲を言えばきりがないけど

できれば人生に感謝をしたいし
残される子どもの幸せを願いたいから

だからそのためにはやっぱり
ちゃんと納得できるように生きなきゃと思う