単なる歯車にもなれなかった人生だけど私が私であればいい
随分と長いこと
狭い世界で生きている。
ここしか知らない。
何十年ともがいて苦しんでいるここ、
ここでしか生きられない。
透明人間
電車に乗る。
社会の歯車にも成れなかったと思う。
成りたかった私が
あたり前のように活気なく
そこかしこに立っているのに。
私は歯車にも成れなかったと思う。
降りるまで目を閉じる。
何も見ない。
電車の中でいつも私は
透明人間のように立っている。
街を歩く。
人が人でないように錯覚するのは、
私だけなのだろうか。
誰も誰かを見ていない。
私も見ていない。
せわしない歯車の群れに紛れ
足早に歩く。
でも私は
歯車にすらなれなかったと思う。
結婚した早い段階で
夢を頭の片隅に追いやったあの時から
こうなることの予想はついていた。
恐れていたことは
歯車になることじゃない
単なる歯車にもなれなかった人生。
ホームレス
アスファルトに寝転がる
ホームレスは何を思うんだろう。
目の前を
カツカツ通り過ぎていく人々は
機械仕掛けのようで。
異世界のよう。
私のように思うのだろうか。
いつ諦めたのだろうか。
それとも
満足しているのだろうか。
満足していたらいいのだけど。
泣いているんだろうか。
笑えているんだろうか。
″無″なんだろうか。
ほんと余計なお世話で
ほんとどうでもいい他人ごと。
衣食住はあるけど
私は彼らだ。
電車の窓から見える河川敷に
掘っ建て小屋を建て住んでいた
ホームレスが幸せそうに映ったから
私も幸せだった。
春夏秋冬、
季節だけが変わり、彼は変わらず、
車窓から掘っ建て小屋が見えた2年間は
心がほころんだ。
真冬の真夜中のコンビニ
薄着のおばあさんが
一個の使い捨てカイロを買った。
直ぐには気づけなかった。
だけど、
追いかけるべきだった。
着ていたダウンコートを
脱いで差し出すべきだった。
と、冬になると思い出す。
おにぎり一個のお会計で
足りない1円を探している。
レジのお兄さんに期待したが
お兄さんは困り顔で待っている。
迷った。
この目の前の光景に
また私は何年も胸を痛める。
だから
足りない1円をお皿に入れた。
お礼を言われた。
私は誤った。
でもやっぱり何年も胸は痛い。
衣食住はあるけど
私は彼女らだ。
自死
友だちとランチを食べていた
その時間、
そこの歩道橋から走る車の波の中へ
飛び降りたらしい。
警察が目撃者を探しに入店してきた。
髪の色が若い・・・
路上に転がっている・・・それら。
彼女はきっと
空に向かってゆっくりと飛んだ。
その瞬間。
穏やかに。
自由に。
たった一人でふんわり飛んだ。
内的要因でも社会的要因でも
純粋に生きた代償。
証し。
自死の是非よりも
戦い追い詰められ
逃げ場の無くなった苦しみから
どうぞどうぞ解放され、
楽になっていますように。
砕け散った絶望の中で
希望が光りますように。

今、苦しんでいませんように。
終わりますように。
始まりますように。
心の中で祈るだけ。
羽を切られたインコ
ご近所さんが連れてきたインコ。
猫に襲われていたという。
羽を切られても必死に
青空に向かって飛んだのだろう。
うちの玄関で鳴きながら
泣いている。
狭いカゴの中で
二度と羽ばたくことはない。
その生涯をここで終える。
わたしと一緒。
生きるために自分を忘れ、
ただ年月だけを浪費し、
地続きの絶望の中、
奈落の底に落ちて行きながら見たのは
微かに輝くあの頃の自分。
父と母の娘だった頃の自分。
誰の人生でもない
自分の人生を生きていた、
羽ばたきながら
幸せとか不幸せとか
考える必要はなかった、
私が私だった頃の自分。
きっと意識に上がらないとこで
私を支えていたのも
あの頃の自分。

自分への償い
長い悪夢が終わり、
支払った代償の大きさに震える。
社会の歯車にすらなれなかった、
どうにもならない現実が
現実味を帯びてくる。
置き去りにしていた自分への償いは
夫と戦わずに闘うこと。
淡々と。
もしくは逃げること。
自分を守らなければと思う。
部活が終わる夕暮れ時の
実家から漏れる明かりは温かくて
帰りを待つ母のもとへ
ただいまーと帰ったあの頃のように、
心が平和で自由であればいい。
私が私であればいい。
これから守るべきものは
ただそれだけ。