モラハラ夫の不倫調査の依頼と証拠
探偵事務所、間違いない証拠が欲しい
白いものでも俺が黒だと言ったら黒なんだ。
夫にとって事実は、“事実”でない。
夫は、嘘も“事実”にする。
そして、逆らう相手には容赦ない。
間違いない証拠を撮らなきゃ、
どんな手段を使ってきても勝てる証拠。
そしたら、司法が判断してくれる。
いつ終わるか分からない“遊び”だ。
“遊び”が終わる前に証拠を撮らなきゃ!
焦る気持ちは直ぐに行動に移した。
一週間分のLineのやりとりを持って探偵事務所にいた。
平常心でここに来たと思う。
調査 GPS 指示 追跡 尾行、
非日常の空間で聞くワードは、頭の中で消えていく。
「お父さんかわいそう」・・・つぶやいていた。
「かわいそう?まだ好きなんじゃないですか?」 怪訝そうな顔で問い返す相談員 。
確かに矛盾しているから、「好きじゃない」と返答する私に説得力は無い。
そんなに単純なことなんだろうか、、、怪訝そうな顔で私を見るその相談員は、夫婦問題カウンセラーという肩書を持っていた。
夫のことは大嫌いだ、離婚しようと思ってここに来た。
でも思わず出たその言葉も嘘ではなかった。
罪悪感
居心地の悪い事務所を出た。
息がしにくい、深く息を吸うと、
吐くのは息なのか、ため息なのか、区別がつかない。
吸っては吐いて、吸っては吐いて。
・・・罪悪感だった。
夫にとってはただの遊びであろう不倫、
人を介しての調査、GPS、やり方が汚い、正々堂々としてない。
家のお金を使った、それも大金だ、怖い・・
直ぐに否定する。
ただの遊びでも一線を越えたのは夫!
正々堂々と戦える相手じゃないでしょ!
私も給料貰っている、自分のお金!
もう罪悪感に押し潰されていた。
GPSと調査と指示
車にGPSが付いた。
怖い、胸が締め付けられる。夫に見つかったら・・・恐怖に震えている。
あの夫婦問題カウンセラーの資格を持つ、相談員との事務的なメールのやりとりは、
文面に温かみのかけらもない。
こんなものだろうか、これがいいのかも知れない。
事務的に機械的に淡々と進めることが大事な事なのかも知れない。
文字を打つ手がいちいち震える。
頑張れ、頑張れ、直ぐに終わる。
お腹が空かない、落ちる体重と落ちる気力。
食事を流し込む自分が情けない。
自己中心な夫は周りの目など気にもしない。
だから外出の日は分かりやすい。
早くGPSを取り外したい私は焦っている。
指示を出した追跡はいつもデートばかり、
それは不貞の証拠にならないことも忘れている。
夫は温泉旅行に行くはずだ。
口実も場所も予想できていた。
契約の時間を半分残して、その時を待つ。
予想通りだった。
住所とホテルはメモして財布に入れるはずだ。
何て分かりやすい行動パターンなんだろう。
財布の中の紙切れを写真に収めながらそう思う。
これで終わる。息苦しい毎日がやっと終わる。
GPSを取り付けてから3週間、
重くのしかかった 罪悪感と恐怖に解放された。
不倫の証拠、何も感じない
調査員の報告を聞きながら、モニターを観ている。
映し出される動画はドラマのよう。
手をつないでのデート、暗い駐車場でのキス、
一泊の温泉旅行は、まるで仲の良い熟年夫婦そのもの。
非日常の空間で非日常の出来事を観ている。
ただ鑑賞している。
呟きながら鑑賞していた。
「すごーい、あーあ、お父さん撮られちゃったよ …」
何も感じなかった。
僕もこの業界に入って、最初の頃は・・・
事務的に事が運んでいた中、その調査員はいい人だった。温かみを感じた。
冷たい一室でそれだけは感じた 。
調査員の助言
空虚な部屋を後にしながら、
「熟年でもあるんですね。」と私。
「男も女も年齢は関係ないですよ。
死ぬまで男は男、女は女、ですよ 。」
「女の人を憎くはないし、
遊びが終わったら夫を許すかもしれない。」と私。
「離婚するしないは夫婦の問題、まずは、部外者の女をはぶくんです。
それから離婚する、しないを決めるんです。
夫婦の共有財産を女に使われているんですよ 。
何もしなかったら次またやりますよ。
必ず、次があります。
そして奥さんは保険のために、また大金をかけて調査をするようになるんですよ。 」
きっと数多くのケースを調査してきた人だろう。
その助言は、間違いないのかも知れない。
そのまま脳裏に焼き付けた。
証拠は撮れた
リアリティが出てきた離婚の二文字。
帰り道、お茶を飲みながらぼおーっと考える。
片づけなきゃいけない数々のこと。
迷惑をかける人たちのこと 。
考えながら深く息を吸っては吐く。
吸っては吐く、吸っては吐く。